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津の国ものがたり 渡辺津(わたなべのつ)
水軍の祖「渡辺綱」は
鬼退治で有名な
頼光四天王の一人!

大阪の歴史を辿ると、難波京から石山本願寺までの間がぽっかりと空白になっているような印象があります。
しかし、ところがどうして、われらが八軒家かいわいでその時期に歴史の表舞台で活躍していた一族がいました。嵯峨源氏・源融の子孫、渡辺綱(わたなべのつな)を祖とする渡辺氏です。

図1)
「武勇准源氏 橋姫 渡辺綱」歌川国芳(山口県立萩美術館・浦上記念館より)

渡辺綱
武州の人初め箕田源吾瀧口内舎人と号す
後摂州渡辺に住す
頼光第一の臣にして勇猛大力の士なり
一條戻り橋にて妖怪に遇て
雲中に鬼女の腕を切て
北野の回廊の尾棟に落ける
(同・口上書)

頼光四天王の筆頭として数々の武勇伝にも名を残す渡辺綱(九五三年〜一〇二五年)は、右にあげた武者絵の口上書(下段)にあるように、関東から移り住んだ人物ですが、さて、彼が本拠地とした「摂州渡辺」とは、一体どのあたりを指していたのでしょう?

淀川・大和川の二大河川は、古代より大阪平野を貫き、平野をうるおし、そして奈良・京都・大阪を結ぶ交通の大動脈を形成していました。中世(平安後期〜室町時代)には、その両河川が合流して上町台地のすぐ北側を流れていたのです。
このあたりこそ、渡辺綱の本拠地。古代には難波津(なにわづ)、そして中世には渡辺津(わたなべのつ)と呼ばれた港湾地区、そう、われらが八軒家かいわいだったのです。
 
渡辺津は旧淀川(大川)の天満橋から天神橋あたり。窪津(くぼつ)とも呼ばれました。
渡辺という地名が十一世紀の初めにすでにあったことは、同時代の歌人・良暹(りょうぜん)法師の「わたのべや大江の岸に宿りして雲井にみゆる伊駒山かな」(後拾遺和歌集)という和歌でも知ることができます。江戸時代の「摂津名所図会」によると、八軒家の右岸を北渡辺、左岸を南渡辺と称したとあります。
 この港から船出し西へ向かえば、瀬戸内海を経て九州へ、そして朝鮮半島、中国大陸へとつながります。したがって、このあたりは、古代〜中世を通じて都(難波、奈良、京都)の「玄関口」として、ゆるぎない地位を保っていたのです。
平安中期になると、熊野や天王寺、住吉大社への参詣が盛んになるにともなって、渡辺津はその出発点としても栄えるようになります。

図2)
室町時代大坂図「難波之古図」(早稲田大学図書館より)
河内国雲茎寺所伝本〈康正二年(一四五六年)写〉を宝暦六年(一七五六年)に写したものを、さらに嘉永五年(一八五二年)に写したもの。ワタナベ橋付近をクリックで拡大できます。

渡辺綱の後裔は、この渡辺津を中心に大川河口辺の港湾地域を本拠地とする「渡辺党」という水軍も兼ねた武士集団を形成し、いわば大阪の水上警察的な役割を担います。瀬戸内海や紀伊水道を海船によって運ばれてきた年貢米などは、ここで川舟に積みかえられて淀川を遡りました。そういった港湾関係者を統括する役割も担いつつ勢力を拡大していったと思われます。

渡辺党の家祖、渡辺綱は、嵯峨天皇の皇子である源融(源氏物語の光源氏のモデルと言われています)の血を引く源宛の子。源満仲の娘婿である仁明源氏の源敦の養子となり、義母の里が渡辺津であったことから、ここを本拠として渡辺氏を称しました。
綱は武勇に優れ、摂津源氏の源頼光に仕えて「頼光の四天王」の一人と称せられます。大江山の酒呑童子退治や京の羅城門の鬼の腕を斬り落とした逸話などはあまりにも有名。これらの武勇伝を題材にした江戸時代の錦絵が数多く残されています。

図3)
「大江山酒呑退治」歌川芳艶(舞鶴市糸井文庫より)
大江山の酒呑童子(中)と戦う源頼光と四天王。右・手前から渡辺綱・碓井貞光・卜部季武、左・手前から源頼光・坂田金時。渡辺綱をクリックで拡大できます。

渡辺党はその後も着実に勢力を拡大し、保元の乱では源頼政の郎党として御白河天皇方につき、平治の乱では平清盛方について戦いました。
十二世紀末、源平合戦の屋島の戦い、壇ノ浦の戦いでは、源義経が水軍を編成し渡辺津から出陣しました。この時、本陣を八軒家の坐摩(いかすり)神社に置いたことでもわかるように、渡辺党の水軍が大いに力を発揮しました。十一世紀末以降、坐摩神社は渡辺氏の一族が神職を務めていたのです。
(平野)

参考資料
「新修大阪市史 第二巻・中世」(新修大阪市史編集委員会編 一九八八年)
「大阪府史 第三巻・中世編㈵」(大阪府史編集専門委員会編 一九七九年)
「渡辺津と『寺内之浦』 中世・戦国の大川端かいわい 」仁木宏(大阪市立大学都市文化研究センター 二〇〇七年)
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